いろんな国で開発された対戦車ライフルだけど、実はアメリカでもこんなものが開発されてたよって記事。
.60 Cal Anti-Tank Rifle “T1 & T1E1”
T1対戦車ライフルはアメリカで開発された.60口径(15.2mm)の試作対戦車ライフルである。(以下、この記事ではT1ライフルと表記する)
またT1E1はその改良版と思われる。
残された資料は画像を含めて非常に少なく、詳細は謎に包まれている。
使用する弾薬は15.2×114mm弾で、MG151をベースに開発されたT17航空機関銃の使用弾薬としても知られている。(以下15.2mm弾と表記)
この弾薬は1939年までに開発されており、後に口径を12.7mmにネックダウンした.50/60弾(12.7×114)や、口径を20mmに変更した20×102mm弾の開発に繋がっている。
なお20×102mm弾はM39リボルバーカノンやM61バルカンの使用弾薬として広く使用されている。
資料によっては逆に20mm弾から15.2mm弾に派生したとされるが、航空機銃の研究者として著名なアンソニー・ウィリアムズ氏の資料によるとこれは誤りであるとのこと。
そもそも15.2mm弾は既存の.50Cal(12.7mm)弾より強力な弾薬を求めて第二次世界大戦初期に開発されたもので、1200グレイン(≒77.75g)の弾頭を毎秒3500フィート(≒1067m/s)で発射することができた。
ちなみに.50/60弾の初速は毎秒3900フィート(≒1189m/s)であり、また後の20×102mm弾となった.60/20弾では1500グレイン(≒97g)の弾頭を毎秒3300フィートで発射したという。
15.2mm弾はソ連のシモノフやデグチャレフの対戦車小銃(PTRSやPTRD)に使用された14.5 x 114mm弾に近い性質の弾薬で、それより少しだけ強力だった。
具体的には1180グレイン(≒76.5g)のAP弾を毎秒3,600フィート(≒1,100m/s)の速度で発射し、銃口エネルギーは34,000フィート/ポンド(≒46キロジュール)以上であった。
参考までに7.62mmNATO弾は約2,700フィート/ポンド(≒3.6キロジュール)、5.56mmNATO弾は約1300フィート/ポンド(≒1.7キロジュール)である。
射撃試験では距離450mで32mmの装甲を貫通できたので、もし1939年に実戦投入されていたならば30mm以下の装甲を持つ枢軸軍軽戦車などに対しては十分に有効打を与えられたと考えられる。
問題は射撃試験が行われたのは1942年と1944年であるということで、その頃には既に性能不足なのは明らかだった。
この事がT1ライフルが試作のみに終わり、その資料のほとんどが破棄された原因であると思われる。
試験が遅れた正確な理由は不明だが、なんらかの原因で開発が遅延したのだと思われる。
そんなT1ライフル(及びT1E1)は2〜3人の人員による運用を想定して設計されており、持ち運び可能な三脚を備えるガス圧利用式半自動対戦車ライフルであった。
この三脚はブローニングM2HB .50口径機関銃に使用されていたものと同型であると思われ、運用に掛かる労力もM2HBと同等であったと推測される。
銃の設計史はほぼ完全に失われており、スプリングフィールド造兵廠のアーカイブに残された資料は写真1枚のみ。アメリカ国防技術情報センター(DTIC)やアメリカ合衆国商務省科学技術情報サービス(NTIS)を検索しても、20×102mm弾の開発に重要な役割を果たしたことと、弾薬についての報告書がヒットするのみだという(※自分でも調べようと思ったけど上手く出来なかった。残念)
他国の半自動対戦車ライフルと比較したT1ライフル最大の特徴は、その給弾方式だった。
それは初期のホッチキス式機関銃を彷彿とさせる保弾板による給弾であり、この方式を採用した銃器としてはT1ライフルが最後であろうことはほぼ間違いない。
なお保弾板による給弾を行う銃火器は第二次世界大戦中の日本軍でも運用されたが、それらの銃器はT1ライフルより以前に設計されたものである。
そんな保弾板には15.2mm弾が5発ないし8発入るように作られているが、なぜこの時代遅れとも言える方式が採用されたのかは謎に包まれている。量産型では変えるつもりだったのだろうか?
またストックの形状も初期のホッチキス機銃を彷彿とさせるものであった。
試作された銃にはアイアンサイトがなく、標準的なライフルスコープと思われるものが備えられていた。
射撃試験の結果に関する資料は見つかっておらず、おそらく銃共々廃棄されたと思われる。
なぜなら開発の遅れから既に成形炸薬弾を使用する個人用対戦車兵器が登場しており、どうあがいてもイラナイコ宣言を免れなかったのである。
※M1バズーカの実戦投入は1942年11月
・参考文献
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