これがブルアカにヒフミ(水着)の愛用品として追加されたことで、また英国面を雑にディスるデマが広まっているので、実際どうなのかを簡単にまとめてみた。
※2023/04/30追記:翻訳部分の重複する記述を統合しました。
以下、代表的なデマのコピペ
「ヒフミの愛用品としてくるあのヘンテコ弁当箱は英国戦車クルセイダーの標準装備として今も配備されている高性能ポッドである。三度の飯よりもティータイムが大事な英国紳士は砲弾が飛び交おうが紅茶をキメなければならないために開発されたものでご飯も炊ける。やっぱ頭おかしいよ英国は」「詳細な開発理由も“紅茶を淹れるために戦車から出て焚き火を焚いていたら敵に見つかり戦死”という不祥事をなくすために車内でお湯が作れるようにしたってのが理由、うんおかしい。しかもこれで戦死率は6割以上減り、しかも指揮はグングン上がったと言う……おかしいだろオイ‼︎」
まずヒフミがクルセイダー巡航戦車に乗っていることから勘違いしている人が見られるが、実際に制式装備となったのはセンチュリオンから。
今も配備されていることや、調理もできる高性能ポッドなのは本当。
でも開発目的や用途を考慮すれば決して頭はおかしくない。
続いて、開発理由は概ね正しいが、調理や湯沸かしのために車外に出た戦車兵が無防備になるのは世界共通の問題であり、なにもおかしくはない。
というか直後に戦死率が減ったって自分で言っとるやろ。
なお採用で戦死率が6割減ったという話だが、それを裏付ける英語文献は見当たらず、おそらく日本ローカルの与太話かと思われる。
特に一時期の英国面ブームで、多くのデマが出回った(洒落ではない)ので、そのひとつであろう。
そして湯沸かし器で士気が上がるのも別におかしくない。
後述するが製造メーカーをして「軍隊は胃袋で行進する」と言わしめるほど、食事は重要な要素である。お前は一週間温かいメシが食えなくても士気が下がらないのか?
というわけで、そろそろこのボイリング・ベッセル(以下BV表記)が一体どういうものだったのかを説明していこう。
まずBVの開発以前、英軍(及び英連邦軍)ではベンガジバーナー、あるいはベンガジクッカーと呼ばれる即製調理器具が使用されていた。
これは上面に穴を開けたジェリカンやビスケット缶の下半分を砂に埋めて作った缶ストーブで、主に北アフリカ戦線の砂漠で作られた。
というのも当時装甲車両の乗員には携帯用圧力ストーブ「Cooker, Portable No 2」が支給されていたのだが、これは砂が詰まりやすく砂漠では不便だったのだ。
ちなみにベンガジバーナーの燃料にはガソリンを染み込ませた砂が使用されたが、これは素早く静かに炎を起こせる一方で、すぐに燃え尽きてしまったという。
またその炎の明るさ故に、仮設の滑走路を照らす明かりとしても使われたらしい。
加えて当時の砂漠戦線に供給される水はジェリカン等で輸送されることが多く、ベンガジバーナーの素材には困らない一方で、そのまま飲むには匂いがキツイという欠点があった。
そのため英軍が砂漠で紅茶を嗜んだのは単なる紅茶好きだけが理由ではなく、この悪臭を誤魔化すためでもあったらしい(ただし英軍が伝統的に紅茶を嗜むのは事実)。
また皆で火を囲んで茶を嗜むことは団結力と士気を高め、彼らの心の支えとなったという。
この用途のために大隊が一日当たりに消費する燃料は一説には450Lにも達し、英国政府は市場の紅茶を買い占めて戦場に送ったとかなんとか。
そしてこの戦場ティータイム文化は戦線がヨーロッパに移った後も継続され、無線手と車体機銃手は紅茶を淹れることが業務の一環となり、「WHEN IN DOUBT BREW-UP」(困った時の湯沸かし)なる言葉が生まれるほどだったという。
なおこれを目撃した米軍将校が呆れて困惑する言葉を残したとされるが、ちょっと思い出してほしい、そもそも彼ら米軍には太平洋の離島にあるジャングルまでコーラを届けるレベルの輸送能力と福利厚生があるということを。
しかしこのベンガジバーナーの使用中、装甲車両の乗員が無防備であることは事実であり、ヴィレル・ボカージュの戦いにおける大惨事の原因ともなっている。
また1946年の英国医学研究評議会による発表によると、1945年3月から終戦までの機甲連隊における全死傷者の37%が、車外の乗組員であったという(ひょっとすると、この数値を勘違いしたことが戦死率6割減の元ネタなのかもしれない)。
そこで安全な車内で湯沸かしができるようにと開発されたのがBVである。
BVは基本的に高性能な電気ケトルであり、主な用途はレトルトパウチや缶の加熱、そして湯沸かしである。
BV内部を汚さないように配給される缶には粘着ラベルが付いておらず、同時に4つ(=乗員数)まで加熱可能。
沸かした湯の用途は紅茶を含む飲用に限らず、洗浄や消毒などにも用いられる。
VBE No 1として知られる最初のバージョンは先述の通りセンチュリオン戦車と共に採用され、1950年代初頭にはステンレス製のNo 2に、更にその後電気ソケットが改良されたNo 3を経て、80年代に設計された「調理容器 FV706656」または「CV」と呼ばれる現行モデルに至っている。
これは戦車はもちろん、それ以外の主要な装甲車両のほぼ全てにも搭載され、乗員の生存性と快適さを高めている。
現在の製造メーカーであるElectrothermal社によると、仕様は以下の通りとなっている。
・移動中でも、車内の水 2 パイントと 5つのMRE を加熱可能。
・本体の電源を切った後、内容物を最大 6 時間保温。
・「接触冷感」アウターケーシング(※脚注:加熱中に触っても熱くない!)
・設計された「ボイルドライ」状態とフェイルセーフメカニズム(※脚注:湯沸かし器の事故は洒落にならないので重要)
・車両の補助電源に接続、DC 24 ボルト
・加熱範囲 66~71℃(LO設定時)
・加熱範囲 82~88℃(HI設定時)
・周囲温度 21°C から 1 時間 (最大) で 56°C のランプレート
また、以下は「軍隊は胃袋で行進する」の訳文である(一部意訳)。
「弊社は軍人の水分摂取量と栄養摂取量の両方を最適なレベルに維持することの重要性を認識しています。
人体のエネルギー生産メカニズムは複雑ですが、グリコーゲンを使用可能なエネルギーに代謝するために食物と水が必要であることは反論の余地のない事実であり、水は細胞内のエネルギー生産の主要な原動力であるため、わずかな水分の損失でも私たちを無気力にさせます。
本ヒーターは、世界中の現代の機械化された軍隊の要求を満たすように設計されています。
戦闘中、パトロール中、その他状況に関係なく、必要に応じてすぐにMREや飲料用のお湯を提供します。
それらは頑丈で、最も過酷な環境に耐えるように製造されており、装甲車両、巡視船、ヘリコプターに取り付けることができます」
また現在のバリエーションは以下の通り
RAK 15: 15A で動作し、戦車やトラックへの設置用に設計されています
RAK 30: 30A を消費してより速く加熱し、海兵隊および特殊部隊向けに設計されています。
実際このモデルは、アフガニスタンでも有益であると示された他、NBC防御の面でもこの手の装備は重要であり、結局他国も同様の装備を採用している。従ってBVの英国面は、戦車のように後のスタンダードとなるタイプであったと言えよう。
わかりやすく三行でまとめると、
・紅茶を飲むのは水の臭さをごまかす意味もあった。
・沸かしたお湯は紅茶以外にも使う。
・実用性が高いので、英軍の頭はおかしくない
以上である。
・参考文献、画像引用元
コメント
サイトの内容は良いと思うのですが、chromeの最新バージョンでみているとページが応答しないとポップアップしてきて見ずらいです。
マジか…対応したいので、より、詳細なレポートをいただけると助かります